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丹波漆と漆掻き体験
1.はじめに
 2016年7月頃に、大学で指導している学生から、自分で「漆掻き(漆の採取)」を体験してみたいとの申し出があり、これまでかなりご無沙汰していた京都府福知山市夜久野町にある丹波漆の生産地を、8月に訪問しました。訪問先は、丹波漆の植栽や採取をしておられる岡本嘉明さんで、学生と共に、夏真っ盛りの漆掻きを体験しました。
 
2. 丹波漆と「やくの木と漆の館」
 夜久野町は京都府の北西部に位置していて、兵庫県との県境に近いところにあります。冬は結構雪が積もる地域で、2017年1月下旬では腰近くまで雪が積もっています。この夜久野町の近辺地域から産出される漆は「丹波漆」と呼ばれ、1300年前の奈良時代から生産されていたそうです。明治期にはたくさんの掻き子さんもいて、京都の漆器制作を支えていたそうですが、現在は、NPO法人丹波漆の理事長の岡本嘉明さんと2人の若い職人さんの3人で、丹波漆産業の復活のために活動されています。
 また、夜久野町には、「やくの木と漆の館」があります。夜久野の漆掻き文化を守った衣川光治氏(1911年〜1993年)が残した漆関係の資料が保存されており、さらに、漆文化振興のため、漆器の展示会、販売会、漆の体験教室などが行われています。このような漆文化施設があることは、一般の方々に丹波漆のことを知っていただく機会が増えることにつながり、漆関係者として、とても嬉しいです。
岡本さん
NPO法人丹波漆の岡本嘉明さん
「やくの木と漆の館」 「やくの木と漆の館」
京都府夜久野町の「やくの木と漆の館」
 
3.漆掻き体験事前準備のあれこれ
 2016年8月お盆を過ぎた頃、天候が晴れであることを訪問前日に岡本さんに確認し、「やくの木と漆の館」を集合場所として、早朝に、学生を車に乗せて出発しました。
 漆掻きのシーズンは、6月頃から9月末までです。その理由は、紅葉したら光合成しないので、良い漆が採れなくなるためだそうです。なかでも8月は、漆が最も良く採れる時期になります。また、漆の樹は、夜明け前〜午前中に漆液を一番蓄えるそうで、早朝に漆掻きをするのが良いとのことでした。しかし雨の日は、漆掻き厳禁です。漆の樹の幹の傷から出た漆が、乾く前に雨に濡れると、漆が雨で流れて、傷口から雑菌が入ってしまい、漆の樹が弱ってしまうので、漆を掻くことはできません。
 それで、漆掻き体験のために、手抜かり無く準備万端に整えたつもりの出発でしたが、遅刻にはならなかったのですが、幸先悪く、往き道の高速道路で、カーナビ通りに走っていたのに兵庫県に迷い出てしまったり、また、集合場所に到着してから、吸血のヒルが出るため、長靴必須だったらしいのですが、うっかり忘れてしまって、あらら、と思った矢先、「やくの木と漆の館」で長靴を借りることができたりで、訪問当日、あれこれありましたが、無事、漆掻き体験にこぎ着けました。
4.漆掻き体験のあれこれ
 集合場所の「やくの木と漆の館」から、10分ほどの車移動で、漆の樹を植樹した場所に着きました。岡本さんらは、ここで、30本程の漆の樹を掻いておられます。
 岡本さんは、手慣れた様子で、漆掻きをしながら、説明してくださいました。第2回漆あれこれレポートの大子漆編でも登場した鎌(皮剥き鎌)で木の表皮をはぎ、漆カンナのUの字型に曲がった方の刃で傷をつけ、漆カンナの背にある小さい方の刃でその傷を線切りします。岡本さん曰く、漆カンナでの傷の入れ方は、漆の樹皮の下に漆液層があり、そこにちょうど届くのが良く、深すぎても浅すぎても樹液層から外れて駄目とのことでした。
 大子漆に引き続き、私も挑戦しましたが、なかなか力加減が難しく、漆カンナで傷を入れるのが、深すぎたり浅すぎたりで、上手くいきませんでした。1時間弱ぐらいの漆掻き体験で、私は下手で2本だけで済ませましたが、同行の学生は5本以上チャレンジしていました。
丹波漆の植栽地 同行の学生の漆掻き体験 同行の学生の漆掻き体験
丹波漆の植栽地 同行の学生の漆掻き体験 掻いた後の傷
(最上段の白いスジ)
 
5. 漆掻き体験後のあれこれ

 漆掻き体験後、近くにあるもう1つの植栽地を見せて頂きました。下草を刈る前のため、漆の樹の近くまで行けませんでしたが、遠目からは、きちんと手入れされていて、スクスクと成長している様子でした。
 植栽は、植えること自体大変ですが、その後の下草を刈ったり、虫をとったり、鹿に芽を食べられてしまうのを防いだりと、継続した樹の管理の方が大変です。岡本さんとのお話しの中で、木を植えれば漆が採れるというものではなく、10年以上木を育て、管理しつづける人がいなければ、採取できる木は育たない、ことなどを力説されていました。
 また、漆掻き体験で目の当たりしましたが、漆を掻くにも熟練した技術が必要です。岡本さんのところに若い職人さんお二人がおられて、京漆器と対になる丹波漆の復活に向けて、次世代に漆産業を繫げていく状況を、垣間見ることができました。
 採取した漆は、その日のうちに、「やくの木と漆の館」に持ち込んで、採れた分量を記録し、冷蔵庫に保管します。丹波漆が産業として成り立つくらい生産できる日が、いつか来てほしいなと思いました。

もう一つの漆の樹の植栽地 採れた漆の分量を記録
もう一つの漆の樹の植栽地 採れた漆の分量を記録
冷蔵庫に漆を保管  
冷蔵庫に漆を保管  
 
6. 国産漆のあれこれ
 国産漆の生産量は、2014年が1003kgで、対前年比4%減にあります。一方、国内の漆消費量の98%が輸入品で、中国産がほとんどを占め、国産はとても少ない状況です。「第2回漆あれこれレポート」で、茨城県の漆の掻き子の飛田祐造さんをレポートしましたが、漆の主な国内生産地は岩手県と茨城県で、この両県での漆生産が国産漆の生産量の大半を占めています。
 2015年に、国宝や重要文化財の修理・修復は、原則、国産漆を使用しましょう、との通達が国からありました。国産漆の需要は、年々高まっているものの、一度途絶えてしまった漆生産地を復活するには、植林や漆の樹の管理、漆掻きの技術など様々な問題があり、短時間での対応は難しいようです。
7. おわりに
  私は、漆を使って作品制作していますが、まず漆の樹を育て、漆液を採取してくださる方々がいなければ作品をつくることができません。もちろん、その後、漆を精製する漆屋さん、漆を塗る為の刷毛や筆などを制作する方々、顔料や金属粉、貝などの各種材料を作ってくださる方々にも支えられています。
 感謝の気持ちを忘れないとともに、今回の漆掻き体験で、あらためて、次の世代にも漆文化・漆産業を繫げていくことの大切さを感じることができました。
 ところで、私は、帰り道に、丹波の採れたてお野菜いっぱいをお土産にしました。同行学生からは、今度は友人達もたくさん引き連れて、漆掻き体験プラスアルファしたいとのことでした。今回は、時間がなくて実行できませんでしたが、そのプラスアルファって、近くに夜久野高原温泉があって、午前中、漆掻きで一汗かいて、午後、採れ採れ山菜で温泉三昧な計画だったんです。いつかまたの楽しみです。