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輪島編その2
1.はじめに
 「漆あれこれレポート 第9回」でも取り上げましたが、毎年、石川県輪島漆芸美術館で開催される「漆芸の未来を拓く−生新の時」という展覧会があります。金沢美術工芸大学、金沢学院大学、富山大学、東京藝術大学、京都市立芸術大学、東北芸術工科大学、広島市立大学の学部・大学院で漆工芸を専攻した卒業生・修了生の作品が展示される展覧会です。その展覧会に合わせて、シンポジウムが開催されるため、京都市立芸術大学(以下、京都芸大)では、漆工専攻の2回生を中心に輪島市へ研修旅行を行っています。
 京都芸大では、工芸科の2回生から漆、陶磁器、染織と分野ごとに別れて勉強します。漆を始めたばかりの学生さんたちには、同じ漆を学ぶ他大学の学生さんたちと触れ合う、初めての機会になるため、とても刺激的な研修旅行になっています。
 今回は、2018年の「輪島研修旅行」で大学院生3名とともに訪問した輪島の漆芸工房の「箱瀬工房」についてのあれこれをレポートします。
 
2. 箱瀬工房のこと
 箱瀬工房代表の箱瀬淳一さんとお会いしたのは、2017年に大阪、阿倍野の漆専門ギャラリー「舎林(しゃりん)」で箱瀬さんが個展を開催されていた時でした。毎年、学生達を連れて輪島研修旅行に行き、その折に工房見学を行っているとお話しました。その一環で、ぜひ、箱瀬工房の見学をお願いしたい旨を箱瀬さんに伝えると、快く承諾してくださいました。
 2017年は私が輪島に引率ができなかったので、翌2018年に訪問いたしました。見学当日、代表の箱瀬淳一さんは所用でご不在だったのですが、女性スタッフのお一人に案内して頂きました。
もともと工房は箱瀬さんのご実家だったようです。
箱瀬さんの箱瀬工房(母屋)
 箱瀬さんといえば、モダンで精緻な蒔絵が思い浮かびます。工房では制作途中の《富士山と都会の夜景》、《波とヨット》のお皿を見せて頂きました。舎林での個展の時も、バイクや自転車の蒔絵が施された器などあり、伝統的なモチーフと現代的なモチーフを結びつけた、とても遊び心のある作品の数々が並んでいました。
「富士山と都会の夜景」、「波とヨット」の皿 雪花の蒔絵中
 
3.工房での制作あれこれ
 蓋一面に螺鈿と切金を施した、制作中の作品も見せて頂きました。見る方向によって、貝は光り方や色味が変わります。貝片の色味をそろえながら、1粒1粒、貝を貼って行く作業は気が遠くなりそうですが、非常に美しく、加飾の素晴らしさを再確認いたしました。
見る向きによって、貝の色味が変わる。
 工房では、普段使いの漆の器も沢山作っておられます。別の部屋では下地や塗り、研ぎを専門に行う職人さんたちがいらっしゃいました。
 京都芸大には大型の真空ロクロがあり、主に研ぎに使っていますが、箱瀬工房の小型の真空ロクロは作業机の上に置かれています。ロクロに器物を固定して回転させながら、下地をつけたり、漆を塗る作業に使っておられ、場所もとらないしとても便利だなと思いました。
小型の真空ロクロ
 見学時は、小さな箸置きを沢山作っておられました。漆の下地には、砂糖を炭化させて作った「砂糖炭乾漆粉」を使っておられるということです。
 この砂糖が原料になっている炭の粉も、乾漆粉と言うことがあります。まず乾漆粉とは、乾いた漆を細かく砕いて粒状にしたものです。黒漆を使えば黒色の、色漆を使えばいろいろな色の、乾漆粉を作ることができます。作り方は、漆をガラス板などに薄く塗り、乾いた後、剥がして粉末にします。ふるいにかけて、粒を揃えて蒔絵に使ったり、石目塗(いしめぬり)という、ザラザラとした表面の仕上げに使ったりもします。自分でつくるのはとても手間がかかりますし、市販のものはとても高価です。
 乾漆粉や炭の粉は、漆を塗った素地の表面に蒔き付けて、漆で固めて下地を作るのにも使われます。この方法を「蒔き地」といいます。木の炭粉は柔らかく、下地としてはあまり強度がでませんが、この砂糖炭乾漆粉は、触った感じではかなり硬いので、漆で固めると丈夫な下地ができそうです。
砂糖炭乾漆粉を下地に使った
箸置きを研ぐ。
砂糖炭乾漆粉を下地に使った
イルカの置物。
 その向かいでは、研ぎ専門の職人さんが作業されていました。いろいろな形の器物に合った、様々な形の砥石が並びます。とくに、箱の角を研ぐための砥石は、持ちやすいように細長く加工されていて、大きさも何種類もあり、職人さんの研ぎへのこだわりが感じられました。
箱の角を研ぐ用の砥石 様々な形の砥石
 ついで、1階は来客室、2階は上塗り部屋になっている敷地内の蔵を見学しました。蔵なので、入るとひやりと外より涼しい気がしました。
 上塗り部屋には沢山の漆と、上塗りを待つ器物たち、漆塗り刷毛がありました。埃がついてはいけないので、漆の上塗りは埃とのたたかいです。訪問したときは上塗りをしていない日でしたが、上塗りの時は閉じこもって、ずっと塗っておられるんだろうなと想像しました。
 興味深かったのは、机の上に丸く盛られた粘土です。まわりに漆が落ちて固まっているので、一時的なものではなく、ずっとこのままだということがわかります。案内していただいた方に伺うと、漆の入ったお茶碗を固定するための粘土だということでした。なるほど、刷毛についた漆をお茶碗の端でとるときに、お茶碗が転げないようにするためだったのですね。勉強になります。
来客室と上塗り部屋がある土蔵 上塗り部屋と机
漆の入ったお茶碗を固定するための粘土
 また、漆をこすための道具を手作りされていました。こし紙を、箱の上と中心にある丸い穴のところにはめて、上から漆をいれると、こされた漆が下のお茶碗に溜まるというものです。絞ってこすと、こす時に埃が入る可能性がありますが、これですと、埃が入るリスクが減りますね。前方の蓋もアクリルで中が見えるので、使い勝手が良さそうです。
手作りの漆こし器
4.おわりに
 上塗り部屋のあとは、最初の蒔絵の部屋に戻りました。
 ちょうど職人さんが、七福神の蒔絵皿に金粉を蒔いているところでした。七福神の図案も箱瀬さんらしい、楽しい七福神様が並んでいました。
 箱瀬さんはフランスのヴァンクリーフ&アーペルやシャネルの腕時計の文字盤など、海外ブランドの蒔絵制作も手がけておられます。卓越した遊び心あふれる蒔絵の作品から、日常づかいの器まで、幅広い作品を制作し、毎月のように作品展示されている多忙な箱瀬さんですが、作品は軽やかで、職人さんもお仕事を楽しんでおられるのが伝わってきました。箱瀬工房の見学で、技術はもちろんのこと、同行した学生さん達も、制作の心得などいろいろと学ぶことができたかなと思います。
七福神の蒔絵中。金粉を蒔いたところ。

 漆風呂に沢山ならんだ七福神様のように、私と学生達はニコニコで宿に帰りました。
 七福神様は、英語では、定まった表記はありませんが、“Seven Gods of Fortune”, “Seven Deities of Good Luck”, “Seven Lucky Gods”などといわれます。幸せが7つもあることを意味していて、良いことだけの占いを信じてしまう純な私には、ラッキーアイテムです。