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1.きっかけ
今回は、茨城県大子町の漆の掻き子さんと、大子漆を使った作品制作についてです。
ご縁は、茨城県つくば美術館における「笹井史恵×田嶋悦子 イン・ザ・フラワーガーデン」展(2009年10月9日ー11月8日)に際して、茨城県大子町(だいごまち)の企画観光課の方から、「大子漆の良さを広めて頂きたく、大子漆を使って作品を制作して欲しい」という依頼を受けたことから始まりました。
2.漆液の採取(漆掻き)
茨城県は岩手県に次いで、日本で2番目の漆液生産地です。大子町は茨城県の大部分の漆を産出しています。私の作品制作のための漆を掻いてくださった、漆の「掻き子」職人さんを2009年7月18日に取材しました。
漆液の採取は、漆を「掻きとる」と言い、漆を掻きとる人を「掻き子」さんと言います。
大子町の西金(さいがね)駅で漆の掻き子さん、飛田祐造さんと待ち合せました。
飛田祐造さん
この日は、比較的駅から近いところの漆樹を掻いて頂くことになりました。
漆掻きの道具である、皮剥ぎ鎌とヘラ、掻き鎌、チャンポ(漆壷)を見せて頂きました。チャンポは、ホオの樹の皮で作られていて、漆を吸い込んで黒光りしています。


左から:
皮剥ぎ鎌、掻き鎌、ヘラ、チャンポ

漆液採取の様子は、まさしく「漆掻き」という言葉にふさわしく、漆の樹を「引っ掻いて」溝を付けて採取します。
漆液は、漆の葉っぱに日光が当たる事によって作られ、樹皮と木部の間のところを流れています。その部分まで溝を付ける事によって、漆液が沁み出てくるのです。

漆の採取には、「殺掻き(ころしがき)」と「養生掻き(ようじょうがき)」の2通りがあります。現在は、漆液を採取し尽くしてしまう殺掻きの方法が一般的で、大子町もこの方法をとっています。漆液の採取時期は6月から10月までです。一度漆液を採取し終わった樹は11月に根元から伐採します。次の春には、切り株から新芽が出てきますが、漆を採取できるようになるまでには10〜15年程かかります。その間、下草刈りなどの世話もあり、大変根気のいる仕事です。

漆樹の林

漆掻きの始めは「目立て」です。50cm間隔位で、樹の裏側にも交互になるように短い溝を付けます。漆の樹は、自身に傷が付けられると、それを塞ぐ為に傷口に樹液を集中させます。「目立て」によって、漆液が採取しやすくなるのです。
私達がケガをしたら、血液が固まってカサブタになりますが、それとよく似ていますね。

毎日溝を付けると樹が疲れてしまうので、3日休ませ4日目に前回の溝の1cm程上に新しく溝をつけて漆を採り、少しずつ溝を長くしながら、上方に溝を増やして採取していきます。

皮剥ぎ鎌で樹皮を薄く剥ぐ
 
掻き鎌で溝をつける
漆液が沁み出てくる
 
すくい採った漆液をチャンポに入れる

雨が降りそうな蒸し暑いお天気でしたが、こういう日の方が漆の出が良く、カラッと過ごしやすい日は、漆の樹が水分を保とうとするので、漆液の出は悪くなります。
また、午前中の方が特に漆液の出がよいのですが、日が昇って気温が上がってくると、光合成の為に水分が枝や葉に集中してしまって、漆液の出は悪くなるそうです。

6月半ばから7月初めまでに採れた、6、7本目までの溝から出た漆を「初辺(はつへん)」といい、水分が多く、乾きが早いそうです。7月から8月下旬の暑い盛りに採れた漆は「盛辺(さかりへん)」といい、一番葉っぱや樹の水分が蒸発することから、漆成分が多く上質の漆が採れます。9月上旬から9月下旬に採れる漆は「遅辺(おそへん)」といい、濃度が高く乾きが遅い漆になります。10月に入ってからは、長い溝を付けて「裏目漆(うらめうるし)」を掻きます。これはそれまでの漆に比べて、水分が多いそうです。

筆者も掻きました
飛田さんの1日は朝4時に起床し、牛の餌やりをして(2頭飼っておられるそうです。常陸牛として出荷されるのでしょう。)、朝5時頃から漆の樹を掻きます。朝10時頃までが勝負で、忙しい時期は御飯を食べる暇もないそうです。大子町西金、常陸大宮市盛金あたりの樹を、1日で70〜80本掻くそうで、1本あたりで採れる量は1匁(もんめ)=3.75 gとわずかです。
1年で1本の樹から採れる漆の量はおよそ200gと少なく、とても貴重なものだということがわかります。

飛田さんは丁寧に説明しつつ、次々と漆を掻き続けていらっしゃいました。素早い身のこなしは、さすがこの道60年近くやってこられた方だと感じました。
採取できる量はわずか
 
飛田さんと筆者
3.大子漆を使った作品制作

採れたての漆は「荒味漆(あらみうるし)」といい、樹皮などのゴミが入った状態です。この荒味漆は、昔は漆を使う人が各自で精製していましたが、前回の京都編でご紹介したように、現在は漆屋さんで濾過、精製されていることが殆どです。

飛田さんからご提供頂いた初辺の荒味漆を、今度は「鹿田喜造漆店」で濾過、精製して頂きました。私は朱漆で仕上げることが多いので、顔料と練り合わせる為に「赤呂漆(あかろうるし)」に精製して頂きました。2kg弱の荒味漆を、ゴミを取り除き赤呂漆に精製すると、1240gになります。

精製した大子漆
提供して頂いた大子漆を仕上に使って、いくつか作品を作りました。私の作品の仕上げは、漆にゴミが入らないよう、また、刷毛目がでないように塗ったままで仕上げる「塗立て」が主です。
≪さかな≫ 2009年
(大子漆使用)
 
≪華実≫ 2009年
(大子漆使用
4.おわりに

大子漆はさらりとして伸びがよく、とても塗りやすいと思います。色の発色もよく、透明度も高いと感じました。
また掻き子さんには、安価な輸入漆のあおりをうけて、国産漆の価格が低下したこと、高齢化が進む一方、重労働の為になかなか若い後継者が続かないことなど、いろいろの課題があることを痛感しました。

私の大子漆と大子漆作品との触れ合いを通して、漆を少しでも身近に感じて頂ければ幸いです。