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1.はじめに
 2012年9月〜11月に東京、京都、福島で世界の女性漆作家による国際交流展「漆・うるわしの饗宴展」が行われました。
 日本、中国、韓国、ベトナム、タイ、ミャンマー、フランス、アメリカの漆作品が一堂に揃っただけではなく、また各国から作家も来日して各種イベントが行われるなど、とても貴重な機会となりました。
 今回は、京都会場での展覧会(以下、京都展)やイベントの様子についてレポートします。

展覧会チラシ

アーティストトーク参加の作家たちのサイン
 
2.作品展示
 京都展は、二条城のすぐ側にある「京都市立芸術大学ギャラリー・アクア」で行われました。二条城観光の帰りに看板を見つけて入場してくる方も多かったようです。 展示のための部屋がいくつかあり、今回の展示とイベントでは下記の会場が使われました。
 作品展示会場のアクア1は、幅約8m×25mの細長い空間です。会場入り口付近に「紲プロジェクト」の漆パネル27枚が、会場奥に海外作家の作品が展示されました。また、各国の漆事情を記したパネルもあり、それぞれの国の漆事情を知らない一般の来場者にもわかりやすい構成となっています。

アクア1の会場風景(国内作家の展示)

アクア1の会場風景(海外作家の展示)

 特に会場入り口付近にある、「紲プロジェクト」の漆パネル27枚は、今回の国際交流展に参加する各国の女性漆作家に働きかけ、東日本大震災で被災した東北へのエールの気持ちを込めて描いてもらい、2011年秋の「会津・漆の芸術祭」で展示したものです。来場者も熱心に作品に見入っていました。

紲プロジェクト漆パネル 筆者の紲パネル

 
3.国際交流イベント
10月6日(土)にシンポジウム、パフォーマンス、レセプション、10月7日(日)にアーティストトーク、蒔絵ワークショップが行われました。作家向けのセミナーは、10月5日(金)に漆芸作家工房、漆店訪問が行われ、10月7日(日)午前中に手作業での漆の精製を見学しました。
 
○シンポジウム

 シンポジウムは東京で第1弾が行われているため、テーマは「女性漆作家の視点から漆造形を考える2 各国の漆事情と表現 漆に何ができるか」、司会は工芸評論家の外舘和子さんでした。
 パネラーは日本から青木千絵さん、安藤彩英子さん、下條華子さん、井上絵美子さん、亀谷彩さん、松島さくら子さん、名雪園代さん、私、中国からは喬 加さん、祝 重華さん、俞 崢さん、韓国からはイ・ヒョンスンさん、シム・ユギュンさん、シン・ミョンヒさん、コン・キム・ホアさん、フランスからはカトリーヌ・ニコラさん、アメリカからはピピ・オアンさん、ニャッ・トランさん、シャシャ・ヒグビーさんが参加しました。
 まず司会の外舘さんより、工芸の分野で最先端を走ってきた京都で今回の展覧会を行う意義、京都市立芸術大学が日本の公立の芸術系大学で最初に女子学生を受け入れた大学で、女性作家を牽引してきた存在であることが述べられました。
 前半の60分間は、各作家の紹介から始まり、日本(私)、中国(喬 加さん)、韓国(イ・ヒョンスンさん)、フランス(カトリーヌさん)、ベトナム(ピピさん)の漆事情について、基調講演が行われ、各国語の通訳を介して、意見交換も聴衆参加型となりました。
 ピピさんは、自作品の画像を用いながら、「ベトナムの漆画は画家から生まれた技法であり、漆という伝統的な素材を使って、現代性を持つものを融合する動きが今のベトナムで起こっている」ということをお話されました。
 後半の50分間で、会場を交えたディスカッションが行われました。漆の造形素材としての可能性を見いだす為に、自身の造形テーマ:青木さんは「身体をモチーフに黒呂色漆の吸い込まれるような表現」、私は「触りたくなるようなかたち、手触り」、松島さんは「身にまといたくなる皮膚感覚」、井上さんは「五感にうったえる人を喜ばせるかたち」、下條さんは「脱乾漆で型に置き換えたりする過程でのかたちの面白さの発見」、名雪さんは「コントロールできないところで自然と寄り添って制作」、シムさんは「自然を感じる表現」について語りました。全体のお話から、特に乾漆の技法を用いる作家が多くはあるものの、作家によって様々な乾漆のかたちがあることがわかりました。
 各国漆事情の講演に対して、会場の日本の熟練作家から、「日本や中国、韓国は漆の歴史があり、いい意味でも悪い意味でも我々は伝統を背負っている。アメリカやヨーロッパの作家は漆を素材としてのみ捉えており、我々にはできない表現をしている」との意見があり、アメリカやヨーロッパの自由な表現手法と、日本の伝統をふまえた自在な表現手法を追求する姿勢の違いが指摘されました。
 また俞さんの「石膏、樹脂を使ってモデルを作ってから木彫を行う」という制作工程に対し、会場の日本の熟練木工作家からは彫刻的な制作過程での、日本と中国の木や漆の捉え方の違いについて意見がありました。
 このほか会場の日本の若手作家から、漆の現代性について、ピピさんに質問がありました。ピピさんは、「ベトナムにおいて、漆は機能性、文化性というもので語られてきた。そういった属性を取り除き、漆を漆として見る為にはどうしたらよいかという考えで私は制作している。様式やスタイルではなく、現代の問題からインスピレーションを得て、作品を制作しているプロセスが現代性である」と答えられました。また質問をした若手作家からは、「表現や思想を主にしたときに、表現は平面化していくような気がする。純粋な漆をみせるときは平面の方が適しているかもしれない」といった、表現の追求手法についての意見交換がありました。
 最後に司会の外舘さんの「<工芸>が機能をもつもの、というのは西洋的な狭義の<美術>との関係の中で明治の終わりごろに形成れた定義の一つに過ぎず、漆芸は機能の有無にかかわらず表現され、立体/平面といった二元論も超えた存在だと考える。漆は液体だからこそ、あらゆる表現ができる。漆を核にして、作家の数だけ色々な表現がでてくることを望む」という言葉で締めくくられました。


シンポジウム:喬加さん(左写真)ピピさん(右写真)の発表

○パフォーマンス
 シンポジウムが終わると、1階のギャラリーAで装身具を制作しているシャシャ・ヒグビーさんによる、漆の作品を身につけての舞踏パフォーマンスが行われました。自作のBGMと映像に合わせての、妖艶な踊りの世界に観衆は皆惹き込まれました。

漆装身具を身につけてのパフォーマンス

○アーティストトーク

 翌日のアーティストトークは作品が展示されているアクア1で、作家が自作品について語るものです。参加者は日本:青木さん、安藤さん、井上さん、亀谷さん、松島さん、名雪さん、私、中国:喬 加さん、祝 重華さん、俞 崢さん、韓国:イ・ヒョンスンさん、シム・ユギュンさん、フランスからはカトリーヌ・ニコラさん、アメリカからはピピ・オアンさん、ニャッ・トランさん、シャシャ・ヒグビーさんです。
 司会はシンポジウムと同じく外舘和子さんです。まず亀谷さんは作品のテーマについて「非日常の為の用途のない道具を制作し、道具の持つ力で特別な場を作ることをテーマにしている」、松島さんは制作方法について「乾漆の板を作り、その中に針金を入れて完全に漆が硬化しないうちに曲げながら成形している」、私は技法の魅力について「乾漆は軽さと造形が自由にできるところ、塗立ては触ってみたくなるような柔らかい質感が魅力」、青木さんは造形について「曲線を意識して作品を制作している」、ニャットさんは制作過程について「現在、使用している素材、技法とも日本のものだが、私がアメリカに住むベトナム人である以上、ずれがあると思う。そのずれが、私の作品を特徴づけている」と語られました。シャシャさんは作品のテーマについて「大きな人生の営み、大きな時間の流れを表現している」。カトリーヌさんは作品の胎について「素材と漆が引き合うものを選んでいる」、技法については「漆の技法は塗ったものを研いでいく引き算の技法であり、絵の具を塗って重ねて行く絵画と反対のものであると思う」と語りました。
 外舘さんより、「漆の絵画作品は他の絵画と比較して制作に費やす時間がかなり多く、漆画の表現は他の絵画とは異なってくるのではないか、漆の作品は制作工程が多く、時間もかかる。プロセスをどこで終わりとするのかも、表現意図に基づいて作家の皆さんはそれぞれ考えているのではないか」といったコメントがありました。
 各国作家の考えを、一般鑑賞者に伝える事ができたとともに、作家同士でも漆に対する互いの考えを共有大変貴重な時間となりました。



アーティストトーク:国内作家の展示会場(左写真)、海外作家の展示会場(右写真)
 
○蒔絵ワークショップ

  蒔絵ワークショップでは出品作家の井上絵美子さんが講師をつとめました。一般参加者18名に加え海外作家5名も参加して、日本独自の漆技術の一つである蒔絵の体験をしてもらいました。蒔絵の歴史の紹介と技法や金粉の説明のあと、講師や助手の京都市立芸術大学漆工科の学生達の指導のもとで黒漆塗りの小さなパネルに参加者は消し粉蒔絵を施しました。皆さんとても熱心に制作されていました。日本の漆技術のすばらしさが伝わったことでしょう。
 参加者が作成した作品は基本的には当日、専用の箱を用意して持ち帰るのですが、数名の作品は同意を得て、展覧会会期中展示することになりました。


蒔絵ワークショップ  完成した作品
 
○セミナー
 出品作家の皆さんに京都の漆について知って頂こうと、セミナーを開催しました。京都市内在住の漆芸作家、鈴木雅也先生の工房を訪問し、制作の手法や道具の事などの指導を受け、活発な質問を交えて、漆技術の交流を行いました。お茶室でお茶とお菓子を頂き、日本のおもてなしの文化にも触れる事ができたようです。
 次に明治42年創業の堤淺吉漆店(※漆あれこれレポート第1回にも登場)を訪問し、漆の精製機械の稼働実演で精製(クロメ)作業を行っている様子を見学し、現在お店で扱かっている中国産漆と国産漆の動向などを伺いました。皆さん熱心に精製の様子を見学していましたが、最後の漆材料の購入タイムになるといろいろ購入希望のものがあって、お店の方をてんてこまいさせましたが、とても満足してお店を後にされました。

鈴木雅也先生の工房訪問  先生を囲んで記念撮影    堤淺吉漆店での見学

 また、日本文化財漆協会が京都市立芸術大学内で実演していた手作業で漆の精製(クロメ)を行っている様子も見学にいき、実際に体験して頂きました。皆さん日本の伝統的な漆の精製法について学ぶことができたようです。

手グロメを体験するカトリーナさん  漆樹の説明を聞く
 
4.おわりに
 日本、中国、韓国、ベトナム、タイ、ミャンマー、フランス、アメリカの女性漆作家の作品が日本でまとめてみることのできる初めての展覧会だったと思います。会場に設置したアンケートには「漆の素晴らしさを知ることができた」「漆の新しい可能性をしった」「作品・展覧会がよかった」「女性作家の活躍を知る事ができた」「展覧会が国際的でよかった」などの意見が300枚以上集まり、展覧会はとても好評でした。また、海外や日本各地から女性漆作家のみなさんが京都に来て、国際交流イベントに参加されたおかげで、作家同士の国を超えた交流も深まりました。
 10月6日(土)、7日(日)のイベント開催日は、2日間で約600人、会期14日間で1500人以上の方々にお越し頂き、漆に興味を持って下さる方の多さに驚かされました。今後もこのような親しみやすい国際的な漆表現の普及ができる場を作っていくことが、大切なのではないかと感じました。