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第8回
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第8回 ベトナム・ハノイ編 笹井史恵
1.はじめに
 2013年11月11日から23日まで、ベトナム、ハノイで「京都工芸の精華展2013」が開催されました。この展覧会は陶芸、漆芸、染織、木工、金工、ガラスなど様々な分野の工芸作家、25名で構成された作家集団「工芸京都」による展覧会です。2013年7月に信州高遠美術館、2013年10月に京都の中信美術館に巡回し、2013年は日越友好40周年ということもあり、最後にベトナムで展覧会を行いました。私は11月15日から19日までの短い期間でしたが、渡越し、現地漆事情に触れ、日本の漆について講演いたしました。今回は、展覧会や講演会、ベトナムの漆についてレポートします。
展覧会チラシ ベトナム国立美術館
展覧会チラシ ベトナム国立美術館
 
2.京都工芸の精華展2013
ホテルの窓から見たハノイの町 ハノイの町
ホテルの窓から見たハノイの町 ハノイの町
11月のハノイは丁度よい気候で日本の10月くらいの感じでした。
ホテルは展示会場のベトナム国立美術館からタクシーで10分程のところにあり、ハノイ到着後、美術館へ直行しました。同じ敷地内に博物館やレストランもあり、美しく整備されていました。
「京都工芸の精華展」会場風景 「京都工芸の精華展」会場風景
「京都工芸の精華展」会場風景  
筆者 べこちゃん
《べこちゃん》と筆者  
会場に入ると2つの大きな展示スペースがあり、感じの良い照明と配置で展示されていました。京都の中信美術館で展示したときと同じ作品達なのに、また違った雰囲気で新鮮でした。
展示会場には、若い方を中心にベトナム人のお客さんが熱心に観ていて、監視の人に質問している人もいました。ベトナムの人々が京都の工芸作品をどのように感じるか少し心配でしたが、この展覧会に訪れたベトナムの人々は日本の工芸に興味を持ってくれているようで嬉しくなりました。 展覧会の準備は、「工芸京都」の同人の中で役割分担を決め、進められてきました。その準備期間を思うと、こうしてベトナムで展覧会を見ることができて感激でした。
ベトナムまで出張した、作品《べこちゃん》とパチリと1枚写真を撮りました。
 
3.キーマ漆店
翌日、11月16日の午前中、KIMA(キーマ)漆店にお邪魔しました。
ベトナムでは、本漆ではなく合成塗料を使った漆器が多く出回っていますが、このお店では 天然漆を使った商品にこだわっています。
工房にもお邪魔することができ、漆器、漆画制作の現場を拝見することができました。
KIMA漆店 お店の皆さんと
KIMA漆店 お店の皆さんと
研ぎだし作業 研ぎだし作業
研ぎ出し作業  
最初に輪郭線を描く  
最初に輪郭線を描く  
ベトナムの漆はとても透明度が高く、特に卵殻を使ったり、貝を貼ったり、変わり塗りの仕掛けをして研ぎ出す、ソン・マイ絵画が盛んです。丁度、訪問したときは職人さんが研ぎ出しの作業をしていました。慎重に研ぎ出し具合を見ながら、水をつけてペーパーで研いでいきます。
また、下絵、輪郭線は漆で盛り上げて描いていくようで、ベトナム漆の肉持ちの良さを活かした表現だなと感じました。
卵殻を貼る 卵殻を貼る
卵殻を貼る  
次に卵殻を貼っているところを見学しました。漆を接着材として金属の棒で小さく割り拡げながら貼っていきます。写真の卵殻の茶色い色は、銀杏を煎るようにフライパンに砂を入れて、焦がして付けるそうです。
パネルに漆で布を貼る パネルに漆で布を貼る
補強のため、パネルに漆で布を貼る  
木の粉を擦り込んで布目を埋める  
木の粉を擦り込んで布目を埋める  
漆パネルの布張りの実演を見せて頂きました。木のパネルは割れを防ぐ為に漆で布を張ります。 大きな篦で、素早く生の漆を延ばします。そこに目の荒い布を、刷毛で押さえて貼っていきます。 日本ではヒノキの篦を使いますがベトナムの篦は水牛の角からできていて、とてもコシがあり使いやすそうです。刷毛の毛は日本と同じく人毛を使っているそうです。布を貼った後、漆が乾くのを待たずに、木の粉を擦り込んで布の目を埋めます。
その後、表面を滑らかにする為に、漆下地を施し、何度も漆を塗るのですが、ベトナムでは川底に沈殿した泥を漆に混ぜて使用しているそうです。日本は山から採掘した土を原料とし、京都では山科の山から採れる土を原料とした砥の粉や地の粉を使っています。工程は日本とよく似ていますが、その土地ならではの素材が使われているのは興味深く、やはり漆はその土地に根ざしている工芸なのだなと実感しました。
 
4. ベトナム漆画家、安藤彩英子さん

16日の午後は、ベトナム漆画家の安藤彩英子さんのアトリエを訪問しました。安藤さんは漆の研ぎ出しを駆使したソン・マイ絵画と伝統的な漆芸技法を学び、ベトナムで18年にわたり創作活動を続けている作家です。安藤さんの描く漆画は、ベトナム漆の透明度を活かした様々な変わり塗りを施した奥行きのある表現が特徴的で、モチーフには身近な生き物が生き生きと描かれています。
安藤さんは2012年開催の「漆・うるわしの饗宴展」(漆あれこれブログ7[国際交流編]参照)で来日し、ベトナム漆芸について講演して頂きました。

安藤さんのアトリエにて 透け漆
安藤さんのアトリエにて 透漆
生漆  
生漆  
アトリエはハノイ郊外にあり、湖が近くにあって、とても気持ちのよいところでした。幾分、街中より、空気が良いような気がしました。
作品は個展中ということで、アトリエにはありませんでしたが、制作の現場を拝見することができました。
漆風呂は安藤さんお手製で、内側に布が貼ってあり、保湿力があって使いやすそうでした。 沢山の顔料や器に入った漆、貝もありました。また良い刷毛が手に入りにくいので、手に入ったらまとめて購入するそうです。
ベトナムの透漆は精製の際に松脂を混ぜるそうで、なるほどそれで肉持ちのある透明度のある塗膜ができあがるのだな、と思いました。
ストックの漆刷毛 貝片
ストックの漆刷毛 貝片
その後、安藤さんの師匠である、漆画家、チン・トアン先生の工房を訪問しました。先生は「研ぎ出す」「色を混ぜる」「粘着力がある」「磨いて光る」「透明度がある」などの特徴を持つ、ベトナム漆画の魅力について語ってくださいました。ちょうど帰省中のピピ・オアンさん(漆あれこれブログ7[国際交流編]参照)も合流して、皆で近所のベトナム料理店で楽しい夕食をとりました。
左端:チン・トアン先生
右端:ピピ・オアンさん ウミヘビのスープ
左端:チン・トアン先生
右端:ピピ・オアンさん
ウミヘビのスープ、食べました
 
5. 講演会
17日は、日本の国際交流基金ベトナム日本文化交流センターで開催中の安藤さんの個展「JAPAN IN ME」展の関連イベントとして、私の日本の漆についての講演会と安藤さんとの対談がありました。安藤さんの作品は、ベトナム漆を使い、ベトナムの漆技法を使っていますが、構図や色、フラットに研ぎ出された美しい塗面などに、とても日本的なものを感じました。
会場には、安藤さんの目を通した日本の美意識についての解説もあり、見応えのある展覧会でした。
安藤さん個展DM 安藤さん個展の会場風景
安藤さん個展DM 安藤さん個展の会場風景
講演会は「日本漆工芸の現在とその芸術性について」というテーマで、まず日本の漆の歴史について、そして現在の日本における漆工芸家の活躍についてお話しました。
「京都工芸の精華展」で展示されていた作品は、用途のある工芸作品が大半なのですが、ベトナムでは用途のあるものは、絵画作品より低くみられる傾向があり、工芸作家もいないとのことでしたので、日本では工芸作品は芸術作品として認められていて、作家も多数活躍していることをお話しました。 参加者は漆画作家や大学関係者、一般の方など多数お越し頂きました。皆さん熱心に聞いて頂きました。
その後、安藤さんとの対談のあと、「工芸京都」の作家さん達の茶碗を使ったお茶会が開かれ、お茶とお菓子を楽しみながら、和やかに閉会しました。
安藤さん個展DM 安藤さん個展の会場風景
講演会の様子  
 
6. 漆屋さんと貝細工屋さん
18日は安藤さんがハノイの漆あれこれを案内してくれました。
ハノイ国立芸術大学では、漆画制作のクラスを見学しました。大きな水槽があって、水研ぎに便利そうです。訪れたときは、学生さんたちが作品を研ぎ出していました。日本とは対照的に男子学生が殆どで、女子学生はとても少ないそうです。
ハノイ国立芸術大学の漆画制作風景 漆画
ハノイ国立芸術大学の漆画制作風景  
次に漆の材料屋さんに行きました。町の塗料店が立ち並ぶ中にあり、漆の材料屋さんでも漆以外にペンキ等の塗料も一緒に販売し、生漆はペットボトルに入れて売られていました。
ここで漆の染料と水牛の篦、金箔などを購入しました。
漆屋さん 漆画
漆屋さん ペットボトルに入った生漆
最後に貝細工屋さんに行きました、繊細な細工にほれぼれし、1点作品購入しました。この貝細工を作っている村では、貝を切る刃物も、針金に鎚目をつけて自分で作成するそうです。とても繊細な仕事なので、目のいい若い人しかできないとのことです。是非村を訪問したかったのですが、今回の滞在では時間がなかったので、またいつかベトナム訪問するときに出向きたいと思います。
螺鈿細工 螺鈿細工
購入した螺鈿細工 枠の部分の繊細な細工が気に入りました
 
7. おわりに
2013年は日越友好40周年という記念すべき年でした。40年前の1973年に日本とベトナムが外交関係を樹立したのですが、私も1973年生まれでということで、40才の節目の年にベトナムに行く機会を得ることができて、ベトナムとのご縁を感じています。短いハノイ滞在でしたが、非常に充実した滞在でした。
今後、独自の漆文化を持つ、日本とベトナムが漆を通して交流できる機会がもっと増えればよいなと思いました。