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第9回 輪島編
1.はじめに
毎年、石川県輪島漆芸美術館で「漆芸の未来を拓く−生新の時」という展覧会にあわせてシンポジウムが開催されます。この展覧会には、金沢美術工芸大学、金沢学院大学、富山大学、東京藝術大学、京都市立芸術大学、東北芸術工科大学、広島市立大学の学部・大学院で漆工芸を専攻した卒業生・修了生の作品が展示されます。その期間中、大学の先生方や学生さんが集まるため、私もそれに参加すべく、毎年、輪島市に足を運びます。今回は、2013年と2014年に訪問した輪島の漆芸工房を中心に、漆についてのあれこれをレポートします。
 
2. 輪島地の粉の工場
2013年は、彦十蒔絵を主宰する若宮隆志さんに輪島の漆芸関係を御案内頂き、輪島で使われている「輪島地の粉」の工場へ向かいました輪島地の粉は、輪島市の小蜂山で採れる珪藻土を砕き、練り合わせて天日乾燥したものを、蒸し焼きにして粉砕した粉末のことです。珪藻土は、粒子中に微細な空洞がたくさんあるガラス質で、漆と混ぜ合わせると、とても丈夫になります。輪島塗の下地は、輪島地の粉と生漆と米糊を練り合わせて作られます。輪島塗が丈夫ではげにくい、といわれるのはこのためです。
輪島地の粉は、蒸し焼きにするため、色は黒っぽくなります。ちなみに、私が使っている京都の山科で生産されている「山科地の粉」や砥の粉は、山科の西野山の風化した岩石から精製されており、焼いていないので茶色っぽい色です。また、下地には輪島塗とはちがい米糊は入れません。一般の方々の目にはふれませんが、漆の下地材料には地域の特色が現れています。
若宮隆志さん 天日乾燥中の珪藻土
若宮隆志さん 天日乾燥中の珪藻土
輪島地の粉の工場 黒っぽい輪島地の粉
輪島地の粉の工場 黒っぽい輪島地の粉
下地を作るときの米糊  
下地を作るときの米糊  
 
3.蒔絵の工房:柳沢さん
若宮さんとは、乾漆と蒔絵の合作作品≪桃太郎蒔絵≫(2014年)を制作しました。
≪桃太郎蒔絵≫のボディと塗りまでは私が制作いたしましたが、蒔絵は彦十蒔絵と提携している蒔絵師の柳沢修さんに制作して頂きました。訪問時は、丁度、桃の葉っぱの部分を、高上げ漆で盛り上げたところを、見ることができました。
桃のピンクの色を出すのが難しく、一度やり直したそうです。金粉と銀粉を蒔いたものに、色漆で固めて研ぎ出してありますので、金属粉をもう一度蒔きなおさないといけないことが思い浮かび、大変だっただろうなと思いました。
合作の≪桃太郎蒔絵≫ お店の皆さんと
合作の桃太郎蒔絵  
柳沢さんと制作途中の≪桃太郎蒔絵≫  
柳沢さんと制作途中の桃太郎蒔絵  
また、蒔絵の道具類を見せて頂きました。きれいに整理されていて、私ももっと整理整頓せねばと反省。柳沢さんとお話ししていて、輪島でも、現在、道具や材料をつくっている職人さんの後継者がいないとのことでした。このままだと、将来、材料や道具がなくて困ることになるだろうと、非常に危機感を持っておられ、私も漆関係者として、考えさせられました。
蒔絵筆 いろいろな形、サイズの砥石
蒔絵筆 いろいろな形、サイズの砥石
切金(金の金属板)  
切金(金の金属板)  
 
4. 乾漆の工房:平澤さん

乾漆とは、器物や仏像などの素地の製作法の一つです。木、土、石膏などの型を使って,麻布などを生漆と米糊を混ぜた糊漆で張り重ねます。軽くて丈夫なのが特徴です。
乾漆の器を手がけておられる、平澤公祥さんの工房へお邪魔しました。乾漆の菊花型の棗(ナツメ)の型を見せて頂きました。自作の「引きベラ」を使って、型を作っておられます。型を精度よく作るには熟練の技が必要です。精工なお仕事で、コツや手加減などのお話を聞いて、とても参考になりました。

石膏と樹脂の型 金属の引きベラと完成した棗
石膏と樹脂の型 金属の引きベラと完成した棗
平澤さんと大型の乾漆の器  
平澤さんと大型の乾漆の器  
 
5. 漆塗り工房:赤木さん
2014年は、塗り師の赤木明登さんの工房へお邪魔いたしました。
赤木さんとは、以前からやり取りをしていましたが、お会いするのは初めてで、ドキドキでした。宿泊施設でカーナビ付きの車をお借りしての訪問でしたが、カーナビが反応しない山の中で、なかなかたどり着けず、スマートフォンのグーグルマップでようやく到着。こんなところに!という自然の中に、工房がありました。何人も若い職人さんがいて、手際よく作業していきます。上塗りは赤木さんがされているそうで、漆風呂の中には、たくさんの器がありました。
石膏と樹脂の型 金属の引きベラと完成した棗
工房の窓の外は森 漆風呂の中
平澤さんと大型の乾漆の器  
工房の職人さんたち  
ご自身の手で漆を精製しておられるようで、私が使っている、茨城県の大子産の漆も使っておられました。精製につかうクロメ鉢を見せて頂きました。私が使う漆は、漆屋さんに機械で精製(ナヤシ・クロメ)して頂いていますが(漆あれこれ1京都編参照)、夏の暑い時期の天日の下で櫂(カイ)を使って撹拌し、精製しているそうです。私は円形か長方形の舟型のクロメ鉢しか見たことがなかったのですが、輪島は楕円形で、いろいろあるんだなと興味がわきました。
透漆 クロメ鉢と櫂
透漆 クロメ鉢と櫂
工房から少し離れた場所に、赤木さんのゲストハウスがありました。1階には、赤木さんの漆コレクションがたくさんあり、日本、韓国、タイやミャンマーの漆器などがありました。
2階に客室が二つ程有り、漆塗りの浴槽付きでした。もし、自宅を改装することがあれば、そのときは、漆塗りの浴槽にしたいなと思うぐらい素敵でした。
透漆 クロメ鉢と櫂
赤木さんと日本や世界各国の漆器 漆塗りの浴槽
 
6. 大崎漆器店
輪島に来ると毎回かならず訪れるのが、大崎漆器店です。素敵なお椀の見本の数々が引き出しに納められていて、まるで宝箱のようです。2014年の今回は作業場にお邪魔しました。
丁度、上塗りが終わったところで、上塗りの道具を見ることができました。漆を漉して埃を取り除く為の「漉し馬」は京都では1段なのですが、こちらでは3段になっていて、埃を逃さない!構造になっていました。塗りながら、塗面に付いた漆の埃は、鳥の羽の先端を削った「ふしあげ棒」で取り除いていきます。
別の作業部屋では、職人さんが下地を付けているところでした。くるくると、お椀をちいさなロクロにつけて、きれいに下地をつけていきます。下地を付けるヘラは先端が柔らかくてふにゃふにゃで、お椀の曲面に沿って、漆の下地が付けやすそうでした。ヘラの材質は、京都ではヒノキを使いますが、輪島ではヒバを使っていました。
石膏と樹脂の型 鳥の羽を利用した「ふしあげ棒」
三段の漉し馬 鳥の羽を利用した「ふしあげ棒」
下地つけ作業  
下地つけ作業  
 
7. おわりに
最初にもお話しましたように、毎年の輪島訪問の一番の目的は、学生さんたちとともに、「漆芸の未来を拓く−生新の時」のシンポジウムとトークに参加することです。1年に一度、様々な立場の漆関係者が集まっていて、とてもよい刺激になっています。これからも輪島という漆器産地で開催され、学生と教員だけでなく、地元の職人さんともっと交流したり、意見交換できる場であればよいな、と思いました。
ちなみに、身内の京芸の学生達との懇親会では、毎度、私を含めた京芸の先生方の出資で、豪華な刺身盛りをごちそうしています。これを食べるのが、輪島訪問の一番の目的(裏の事情)かな。
 
「漆芸の未来を拓く−生新の時」 ギャラリートークとシンポジウムの様子
漆芸の未来を拓く−生新の時」 ギャラリートークとシンポジウムの様子
京芸の懇親会の刺身盛り  
京芸の懇親会の刺身盛り