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1.はじめに |
子供時代のクラブ活動にて、演劇部や美術部で芸術に馴染み、京都市立芸術大学の学生時代や社会人を経て大学教員となったこれまで、実はパリに行ったことがなく、芸術の都パリはあこがれでした。はずかしながら、パリに初めて行ったのは、2014年3月22日から4月4日までの「漆3人展」に併せてでした。 その後、同じギャラリーからお呼びがかかり、2015年4月28日から5月16日までの個展に合わせて2度目のパリを体験できました。
初めてフランスのパリを訪問してから、なんやかんやでフランスとはご縁がありました。今回は、2014年と2015年のパリ訪問とその後のフランス交流に関する漆のあれこれをレポートします。
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2. パリ装飾美術館(2014年) |
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初パリ滞在中に、パリ装飾美術館にて「Les secrets de la laque française. Le vernis Martin(フランスのラッカーの秘密。ベルニ・マルタン)」展が開催されていました。フランスにおける日本の漆器を模倣することから生まれた「ジャパニング」技法を使った素晴らしい品々がたくさん展示されていました。 |
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「Les secrets de la laque française. Le vernis Martin」展図録より
「ジャパニング」技法の作品事例 |
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日本の漆工芸品がヨーロッパに最初に渡ったのは16世紀末になります。大航海時代に勢力を拡げていった、スペインやポルトガルの商人や宣教師によって、日本の漆工芸品が西洋の王侯や富豪に届けられました。しかし、禁教令や鎖国によって、日本の漆器の流通が17世紀に激減し、そのころからイタリア、イギリス、フランスなどでは、西洋ニスによる模造品の漆器をつくること、すなわち「ジャパニング」が流行しました。
展覧会名にある「ベルニ・マルタン」ですが、「ベルニ」はワニス(ニス)、「マルタン」は18世紀にパリで活躍したニス職人の一族の名前だそうです。目玉展示の青地に金色が美しい書き物机は、当時の東洋の漆では表現できないものでした。ジャパニングを取り入れてフランスで独自に発展させた表現であり、すばらしいものだと思いました。 また、展覧会を見るまでは、ジャパニングはどうしても漆器の模倣、というイメージがあったのですが、すばらしい品々と細工の細かさに圧倒されました。 |
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3.パリ装飾美術大学(2014年) |
パリの装飾美術大学にはラッカーアートのコースがあり、2014年に見学することができました。教授のイザベル・エミリク先生が案内してくださいました。日本の大学の漆芸科の学生達も女性が殆どですが、こちらの学生達も女性が大半でした。立体の作品はなく、平面的なパネルの作品が主で、装飾的な仕事が中心でした。 |
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パリ装飾美術大学 |
イザベル先生(中央) |
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作業する学生さん |
金箔をニスで貼っていきます |
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教室の様子 |
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また、パリには17世紀に作られた、エコール・デ・ボザールという歴史ある美術学校があり、京都市立芸術大学とも学生さんの交換留学を行っています。ラッカーの専門の科は無いのですが、少しだけ学内を覗いてみました。日曜日なので、学生さん達は殆どいませんでした。美術大学らしくあちこちに材料が置いてあったり、汚れているところはあるのですが、校舎がフランスっぽくて、また、自然採光できるような明るい中庭的なスペースがあったりと、とても気持ちよいところでした。 |
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4. 漆3人展(2014年) |
漆3人展は、漆作家の京芸の栗本夏樹先生、京芸卒の佐賀大の井川健先生との京芸トリオにより、会場は、2015年の個展でもお世話になる、エッフェル塔にほど近い場所にあるギャラリー「Mizen Fine Art」でした。 ギャラリーオーナーの美果さんのお声がけで、オープニングには、LAC(Lacquers Association for Creation)の作家さん達がたくさん来訪してくれました。
LACはジャンピエール・ブスケさんが1978年に設立された、ラッカーウエアのアーティストの協会です。ヨーロッパの伝統的なジャパニングの技術や素材で制作する作家や、日本のいくつかの芸大で漆を学んだ作家もいて、日本の漆芸作家と交流があります。
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3人展に合わせて、講演会「URUSHI」が催され、ギャラリーから徒歩5分程のAmerican University of Parisで行われました。
最初に漆についての説明を美果さんが行い、栗本先生、私、井川先生の順で発表しました。
漆に興味がある方が多く、制作の方法や素材についてなど、たくさんの質問がありました。日本と違うな〜と思ったところは、皆さん質問コーナーで積極的に質問されることです。そして、座ったまま皆さん語り始めるのが新鮮でした。
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American University of Paris |
「URUSHI」講演会 |
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皆さん熱心です |
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5. 個展(2015年) |
2度目のパリ訪問は2015年4月28日からの個展に合わせてでした。今回は一人旅です。ギャラリーから歩いて行けるホテルに宿泊しました。
寒さも和らぎ、暖かくなり始める、とても気持ちのよい時期でした。春の訪れを感じさせるような作品になればいいなと思い、作品制作しました。
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今回は、4月29日にパリの日本文化センターと、5月2日にギャラリーにほど近いレクチャースペースの2カ所で講演会をしました。先述したイザベル・エミリクさんとギメ東洋美術館主任学芸員のマクウェルさんと美果さんを交えての「日本の漆、笹井史恵の漆」のテーマで話をしました。ギメ東洋美術館はルーヴル美術館の東洋美術部の役割を担っているそうで、アジア以外では、最多の東洋美術コレクションがあるそうです。
滞在中、私がギメ東洋美術館を訪れたときは、アンコールワットの美術品が多く展示されていました。
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4月29日の日本文化センターでの講演会は、最初にマクウェルさんが大まかな日本の漆の歴史をお話され、その次にイザベルさんが勤務されているパリ装飾美術大学のことを学生の写真とともにお話され、最後に私が自分の制作のことについてお話しました。会場は120席程だったのですが、殆ど満席で、皆さんとても熱心に聞いておられました。講演は予定120分の時間ぴったりで終了できました。5月2日の講演会の発表は少しコンパクトにして、対談や質疑応答の時間を沢山とることができました。マクウェルさんの日本の「置物」に対する思いや、イザベルさんの同じ女性作家としての姿勢などとても刺激になりました。
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パリ日本文化センター |
講演会の様子 |
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講演会の様子 |
ギャラリーの前でマクウェルさんと |
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6. イザベルさんのアトリエ訪問(2015年) |
滞在中の5月1日はメーデーです。フランスでは、美術館どころか、修道院もお休みです。イザベルさんが、アトリエに来ないかと誘ってくださいました。メーデーのおかげで道が空いていて、タクシーで20分程のところのアトリエにつきました。 すてきな中庭のあるアトリエで、イザベルさんは生徒さんに教えておられました。生徒さん達は、小さいパネルの作品を制作していました。イザベルさんは、日本や中国、ミャンマーなど、海外にも多く出かけられており、現地の材料や道具なども取り入れられているようです。最近の作品にはパネルの中央部に金属製の錠前が取り付けられていて、錠前と調和させるようにイメージした図案をちりばめた作品を制作されています。その錠前はミャンマーで手に入れたものとのことでした。
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丁度、ランチタイムになり、皆で「クスクス」を食べに行こうということになりました。「クスクス」といえば、北アフリカのイメージが強いですが、フランスでもよく食べられています。とても美味しく、ボリュームがあり、おなかいっぱいになりました。
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生徒さんに指導するイザベルさん |
道具棚 |
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イザベルさんの作品 |
広々としたアトリエ |
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アトリエの前でみなさんと |
ランチのクスクス |
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7. その後のフランスとの漆交流 |
2014年の10月から、京都市立芸術大学の研究留学生として、フランスのナント(パリから電車で2時間くらい)からブランディーヌさんという女性が漆を学びにきています。彼女は学部生時代に考古学を専攻していたのですが、黒曜石の輝きが漆の黒に似ているところから、漆に惹かれたということです。パリ装飾美術大学のイザベルさんのところでも勉強していて、とても熱心な学生さんです。古代遺跡に対して漆装飾を施すなど、独創的なことがやりたかったようで、京芸では、乾漆で、黒曜石をモチーフにした器を制作しています。
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また、京都には「ヴィラ九条山」というレジデンス施設があり、フランス人アーティストが毎年滞在して、京芸とも活発な交流活動を行っています。
2015年の夏から11月まで滞在していた、フランス人デザイナーのフランソワ・アザンブールさんは、薄く削られたカンナくずの美しさに魅せられ、カンナくずを使った作品をたくさん制作されました。 そのなかで、カンナくずと漆を組み合わせたいとのことで、私に相談してきて、彼が制作した器に漆を塗る協力をさせて頂きました。
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左:ブランディーヌさん
右:フランソワさん |
フランソワさんの展示会 |
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初パリ訪問から、いろいろとフランスと漆交流のご縁ができて、これからも繋がって行きそうです。いろいろな国の方々に漆の魅力を発信していければと思っています。
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8. おわりに |
2014年のパリ訪問では、エッフェル塔におのぼりさんしましたが、エレベーターが混んでいて、階段での登りで、一番下の第一テラスで力尽きました。いつかエレベーターでてっぺんのエッフェル研究室まで行きたいです。またスケジュールがあわず、ルーヴル美術館とオルセー美術館を断念してしまいましたが、2015年のパリ訪問で行くことができました。中学の世界史と美術の教科書で載っていたハムラビ法典とニケ像の実物をずっと見たくて、ついに実現できました。ハムラビ法典の「目には目を、歯には歯を」のフレーズが強烈だったことと、ニケ像の地上へ舞い降りてきた瞬間の飛翔の姿が格好良かったことなど、たわいない理由です。そうそう、2016年2月下旬で4才になった息子は、「ともくん、格好いいが好きやねん。」と、のたまっています。親子だな、と思いました。
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