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輪島編その2
1.はじめに
  年が明けました2021年1月から、新たな作品の制作を始めました。今回は、「漆あれこれレポート」の原稿締め切りとも重なっていて、ちょうどこの作業真最中の漆下地(したじ)までの制作過程をレポートしたいと思います。
 
2. 構想・原型
  現在制作中の作品は、ある日本画の屏風作品からインスピレーションを受けて制作するという初めての試みになります。何の屏風作品かは完成してからのお楽しみにして、皆様にはまたの機会にお知らせしたいと思います。
  私は20年以上愛用しているA6版のノートがあり、すでに20冊以上になっています。そこに毎日やることや、作品構想を書き込んでいます。小さく持ち運びが便利なので、移動途中に何か思いついたときも書き込めて便利です。
  作品の構想がぼんやりとでてきたところで行うのが、小さな模型作りです。立体作品なので、正面だけでなく、いろいろな方向からの形のイメージをつくるため、この作業は大切です。
 模型ができたら、それをもとに実物大の図面(型紙)に起こします。型紙ができたら、実際の作品の原型(げんけい)を制作します。原型とは、作品の元となる形で、乾漆では、粘土、木、発泡スチロールなどで作ることが多く、作品によっては原型から石膏型にして乾漆工程を行います。
 今回は30cmくらいのオブジェなので、原型の素材は、目の細かい発泡スチロールの塊を使うことにしました。手作りの発泡スチロールカッター(変圧器に接続したニクロム線)と、ワイヤーブラシやサンドペーパーなどを使い、原型の形を削り出していきます。この原型に布を貼り、漆下地をつけたり、漆を塗っていくことになります。原型の素材は作品の形状などでその都度変えたり、組み合わせたりします。
アイデアスケッチ  1/5サイズの模型 実物大の図面(型紙)
変圧器に接続したニクロム線  サンドペーパーとワイヤーブラシでの原型の削り出し
 
3. 布貼り
 今回は作品の形状から、原型は取り除かず、心材として残したままにすることにしました。
原型を取り除く時は、布貼り工程が終わった後や、下地の工程が終わって最初の塗りを入れた後に抜きます。
  最初は、原型に強度をつけるために、糊漆(のりうるし)を使って麻布を何枚も貼り込んでいきます。糊漆は米粉を先にお水に浸して吸水させ、お鍋で炊いてつくります。いい匂いがして、思わず味見したくなります。作った糊が冷めてから、生漆(きうるし)を混ぜると糊漆のできあがりです。
  麻の布目は荒いので、乾いたら、布目の間に漆下地を擦り込んで、布目を埋めます。3、4枚貼るころには、ガチガチになっています。
米糊に生漆を加える  ヘラで均一になるまで混ぜる ヘラや指で抑え、麻布を密着
 
4. 漆下地
  漆下地の工程は、漆芸品のできの良し悪しをきめるとても重要な工程といえます。表面がフラットになっていないところに、仕上げの漆を塗っても、きれいに仕上がらないので、素地や麻布の上に漆下地を何度も重ねる必要があります。漆下地の回数が少なすぎると、漆下地が痩せて木目が浮いてきたり、布貼りの目の凹凸が透けてみえてきたりして、美観や耐用性が良くなりません。
  漆下地は、「地の粉」「砥の粉」を水で練り合わせたものに、生漆を加えて練り混ぜて作ります。下の写真①-③は、砥の粉と生漆を練り混ぜた漆下地の「錆(さび)漆」を作っているところです。
  生漆は、空気中の水分や加えた水分に反応して、黒っぽくなります。しかし作ったばかりの生漆だと、まだあまり反応していないので、茶色っぽい色をしています。この生漆を使うと黒い下地にならず、漆下地が「やける」(弱くなってしまう)ので、古い漆下地を混ぜたり、時間をかけて練り合わせたりして、黒っぽい漆下地を作ります。
①砥の粉と水を練り合わせる  ②①に生漆を少しずつ加える ③作ったばかりの錆下地
 漆下地は粒子が粗いものから、細かいものへと何層もつけて行き、形や表面をきれいにします。
「地の粉」は粒子が粗く、「砥の粉」は粒子が細かいので、最初に地の粉を多くして、だんだんと砥の粉の配合を増やしていきます。最後は砥の粉だけの漆下地(錆下地)にしていきます。
ちなみに、この地の粉について、京都では、砥の粉と同様、山科でとれる茶色い色をしたものを使っていますが、輪島では珪藻土を蒸し焼きにした、黒っぽい地の粉を米糊と混ぜて漆下地として使っています。
左:作ったばかりの錆下地  右:時間が経つと黒くなってくる
 
5. 漆下地(切り粉)研ぎ、錆漆研ぎ
  地の粉と砥の粉の入っている漆下地のことを「切り粉」といいます。
  地の粉が多めの切り粉を2~3回ほどヘラでつけ、数日乾かし、よく硬化してから、水をつけて砥石で表面を水研ぎします。私は粗い砥石で1回目の水研ぎをして形を大まかに整えます。
 だんだん砥の粉の割合を多くした切り粉をつけ、2回目の切り粉の水研ぎをして、形を整えてから、さらに錆下地を2回つけて、砥石を使い、水研ぎで平滑にします。これが錆漆研ぎです。
 この後、表面を丈夫にし、また漆を塗りやすくするために、生の漆を吸い込ませます。これでやっと次に、いわゆる刷毛で漆を塗る「漆塗り」の作業になります。
切り粉をつけた下地状態の作品  粗い砥石での水研ぎ作業 砥石での平滑作業
 
6. おわりに
  「作品には漆を何回塗っていますか?」と聞かれることがあります。実は、表面に見えている漆を塗り重ねて仕上げる工程の前に、素地を補強して、表面や形を整える「漆下地」の工程があることは、あまり知られていないと思います。
  かくいう私も、漆について学ぶ前(二十年位前?)は、ピカピカの表面の下に積み重ねられている下地のことなど、全く想像していませんでした。
 漆で作られた器物を見たときに、漆の表面のピカピカの塗膜の下に、薄い何層もの下地の工程が積まれていて、その層一つ一つに手がかけられていることを、理解していただけると嬉しく思います。
 ちなみに、私も息子もチョコレートのお菓子が大好きです。漆下地をつけた作品は、チョコレートのお菓子のように、美味しそうでしょう!